その目は何を映してる?
- 2015/05/21
- 11:56
美しいCST駅から近郊列車に乗りアジア最大のスラム、ダラヴィ地区にやってきた。

限られたエリアの中に100万人とも言われるほどの人が暮らしていて地球上最も人口密度が高い場所とも言われる。
留まることのないインドの経済成長の最先端ムンバイにインド各地から貧しい人々が職を求めてやってくることが背景にあるそうだ。またこの中では宗教なども関係なく入り乱れている。
ムンバイはイスラム教・ヒンドゥー教の争いの過去を持ち、1993年の暴動は有名である。(『スラムドッグ・ミリオネア』で主人公の母親が殺されてしまうシーン)また2008年には前回の記事にも書いたCST駅やタージ・マハル・ホテルを狙ったイスラーム原理主義過激派による同時多発テロも起こっている。
現在そうした宗教的な面での表立った問題はないというが、これもなんとか保たれている均衡なのだろうか。
しっかり説明が聞きたいと思い前日に旅行会社でツアーを申し込んだ。
自分の他にイギリス人、オーストラリア人のカップルとスラム出身で今もそこに暮らす大学生ガイド・ラジャというメンバーだ。

「スラムの中では写真を撮らないでほしい」とラジャが忠告する。
スラムの中には非公認の工場・会社が多数存在する。ブランド物の偽製品などの出所を理解した。
ここでは主に革製品(バッグなど)、服飾がされている。
工場は主にゴミを集めてきて色ごとに分別し、それを細かく刻み熱したり冷ましたりする過程で染色料としていく。
そうした染料に色のない服や革を浸して変色させていくのを眺めた。
さらにミシンなどを使って器用に服を裁縫している。
そのほかにもゴミを溶かしてアルミにしたりと普段目の当たりにすることのない末端産業が展開されていた。
この地域に政府は税金を要求しないらしい。
お金を稼いでも人々がここに留まりたいのにはこういった背景がある。
また、スラムの中にも区域が分かれていて、住居・学校などのある生活エリアと工場の騒音が地鳴りのように響くエリア、また工場とは別に焼き物(陶器)が多く見られた。他にもゴミ捨て場に公衆トイレ(ほとんどの家庭にはトイレがない)、さらにはラブホテルのような機能を成している場所もあるとラジャはニヤニヤしながら言う。
迷路のような道をさらに進む。時折ラジャの友達や幼少時代の先生にすれ違うとラジャは言う。
「この地区ではまだ英語を話すことのできる人は少ないし外国人も簡単に来られる場所ではないんだ。だからこうして外国人旅行者を率いてここを歩くことは僕にとって誇りだし、先生も母さんも喜んでいるんだ!」
最後に彼の勤める旅行会社に行く。この地区では学校に行っても生徒に対して教師は足りておらず、学力にどうしても差ができてしまうという。彼ら旅行会社の職員もスラム出身ということから平日はこの場所をPC教育や塾のような形で開放しているという。
旅行会社ではアンケートやトリップアドバイザーへの評価など「ちゃんとビジネスだなあ」なんて思いつつ済ませる。
全ての行程を終えると旅行会社のオーナーの家に招待される。
三階建てでシャワーやトイレ、キッチンも付いていて外観も中も他の住居とはまるで違っている。
これは旅行会社でのビジネスが軌道に乗って建てられたものであるとオーナーは誇らしげに話す。
チャイをご馳走になり宿に帰る途中に有名な屋外洗濯場に立ち寄った。

手動の洗濯場の背後に建設の進む高層ビル群にインド社会を見た。
皮肉なほどに壮観な景色。
こうして宿に帰ってきたわけだが振り返ってみると物を乞われることは一度もなかった。子供たちは他と変わらず興味津々に寄ってくる。
イメージしているほど職にあぶれて何も生きる手段がないというような人はいなかった。
社会循環のための末端をここで担っている。
しかし淡々と目の前のミシンに向かうその目に映ったのは未来ではなく延々と続く今日や今日のような日々であった。

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